時速500kmの乗り物を造ることが、
東京-名古屋間を50分で行くことが、
生態系を破壊し、国土を痛めつけてまで、
やる価値があるのでしょうか?
東海道線の熱海-函南(かんなみ)間に
「丹那トンネル」というトンネルがあります。
(ちょうど伊豆半島の根本の辺です)
トンネルの真上に当たる丹那盆地では、
稲作を主産業とし、
清水を利用したワサビ栽培も行われていました。
ところが、トンネル工事により、
大量の湧水が出て、地下水が抜け、
灌漑用水が確保できなくなりました。
大量の地下水は抜け続け、
かつて存在した豊富な湧水は
丹那盆地から失われてしまいました。
稲作、ワサビ栽培は、壊滅的な打撃を受け、
かつては、副業だった酪農が、
丹那盆地の主産業となっています。
丹那トンネルの全長は8km弱です。
品川-名古屋間は、300km弱です。
第二、第三の「丹那盆地」が出現する可能性は
十分にあると思います。
地方の産業を破壊しても、
東京-名古屋間の時間短縮の方が、
大事なのでしょうか?
実際、井戸の水位低下や、
土地の陥没のニュースは時々新聞に出ています。
地下50mのトンネルの中を旅行して、
何が楽しいのでしょうか?
旅の楽しみは、途中の景色が見られること
ではないでしょうか?
これでは、富士山も見られません。
日本は、地震大国です。
300kmのトンネルの中を、
時速500kmの列車が走っていて、
もし地震で断層ができたら、
重大な事故に至ることは、容易に想像できます。
でも、私がリニア中央新幹線に
異論をとなえるようになった、きっかけは、
環境破壊、旅の景観、安全、ではありません。
リニア方式の新幹線は、
在来型新幹線に比べて、
3倍の電力を消費するのです。
それだけ、たくさんのCO2を、
熱を、発生させるということです。
(運用コストも当然高くなります)
これが問題です。
今、考えるべき、
最大のプライオリティーは、
最優先とすべき政策課題は、
地球温暖化です。
リニア中央新幹線には、この視点が
まったく欠落しています。
世界中の国が、地球温暖化防止のために、
温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出量を
下げようと、必死にがんばっています。
日本では、
オイルショック以来、官民を挙げて
省エネに取り組んで、実績を上げてきました。
リニア・モーター・カーは、
こうしたカーボンニュートラルを目指す努力とは、
完全に矛盾する発想です。
オイルショック前の
1960年代、70年代の
高度経済成長時代の発想です。
「大きいことはいいことだ」のように、
「速いことはいいことだ」と考えているのです。
地球温暖化の問題がない時代の、
エネルギーはいくらでも造ることが可能だと
考えられていた時代の、
技術者の夢が起点になっています。
今では、まったくの時代錯誤な代物です。
かつての戦艦大和と同じです。
世界一の戦艦を造って、完成した時には、
時代遅れでした。
航空戦が主体の時代になっていたのです。
「世界の三大無用の長物。
エジプトのピラミッド、万里の長城、戦艦大和」
と言ったのは、大和に乗船して戦死された方でした。
時速何kmで走れるかを競うスピード狂の時代ではありません。
どちらが、より地球にやさしい乗り物であるかを競うような、
パラダイムシフト(価値観の転換)が必要です。
日本が地球温暖化に、
本気で取り組んでいることを、
その不退転の決意を内外に示すという意味で、
リニア中央新幹線の建設を中止することは、
とても意義のあることだと思います。
一度やりだしたら止められない、というのでは
先の戦争を始め、終わらせることができなかった
昭和の戦争指導者たちと同じではないでしょうか。
ここまでトンネルができているのに、
もったいない。
その場合は、
リニアではなく、在来型新幹線を走らせればいいのです。
消費電力量は、三分の一で済みます。