「平野文書」全文(6)

僕は第九条を堅持することが
日本の安全のためにも必要だと思う。

勿論軍隊を持たないと言っても
警察は別である。
警察のない社会は考えられない。

殊に世界の一員として
将来世界警察への分担負担は
当然負わなければならない。

しかし強大な武力と対抗する
陸海空軍というものは有害無益だ。

僕は我国の自衛は
徹頭徹尾正義の力でなければならないと思う。

その正義とは日本だけの主観的な独断ではなく、
世界の公平な与論に依って
裏付けされたものでなければならない。

そうした与論が
国際的に形成されるように必ずなるだろう。
何故なら世界の秩序を維持する必要があるからである。

若し或る国が日本を侵略しようとする。
そのことが世界の秩序を破壊する恐れがあるとすれば、
それに依て脅威を受ける第三国は黙ってはいない。

その第三国との特定の保護条約の有無にかかわらず、
その第三国は当然日本の安全のために
必要な努力をするだろう。

要するにこれからは世界的視野に立った
外交の力に依て我国の安全を護るべきで、
だからこそ死中に活があるという訳だ。

問  よく分りました。
そうしますと憲法は先生の独自の御判断で
出来たものですか。

一般に信じられているところは、
マッカーサー元帥の命令の結果
ということになっています。

尤も草案は勧告という形で日本に提示された訳ですが、
あの勧告に従わなければ天皇の身体も保証できないという
恫喝があったのですから事実上命令に外ならなかったと思いますが。

答  そのことは此処だけの話にして置いて貰わねばならないが、
実はあの年(昭和二十年)の暮から正月にかけ僕は風邪をひいて寝込んだ。
僕が決心をしたのはその時である。

それに僕には天皇制を維持するという重大な使命があった。
元来、第九条のようなことを
日本側から言いだすようなことは出来るものではない。

まして天皇の問題に至っては尚更である。
この二つに密接にからみ合っていた。
実に重大な段階にあった。

幸いマッカーサー天皇制を存続する気持を持っていた。
本国からもその線の命令があり、
アメリカの肚は決っていた。

ところがアメリカにとって厄介な問題が起った。
それは濠州やニュージーランドなどが、
天皇の問題に関してはソ連に同調する気配を示したことである。

これらの国々は日本を極度に恐れていた。
日本が再軍備をしたら大変である。

戦争中の日本軍の行動は
余りに彼らの心胆を寒からしめたから
無理もないことであった。

殊に彼らに与えていた印象は、
天皇と戦争の不可分とも言うべき関係であった。
日本人は天皇のためなら平気で死んで行く。

恐るべきは「皇軍」である。
という訳で、これらの国々はソ連への同調によって、
対日理事会の票決ではアメリカは孤立化する恐れがあった。