「平野文書」全文(9)

問  天皇陛下憲法についてどう考えておかれるのですか。

答  僕は天皇陛下
実に偉い人だと
今もしみじみと思っている。

マッカーサーの草案を持って天皇の御意見を伺いに行った時、
実は陛下に反対されたらどうしようかと
内心不安でならなかった。

僕は元帥と会うときは
何時も二人切りだったが、
陛下のときは吉田君にも立ち会って貰った。

しかし心配は無用だった。
陛下は言下に、徹底した改革案を作れ、
その結果天皇がどうなってもかまわぬ、と言われた。

この英断で閣議も納まった。
終戦の御前会議のときも陛下の御裁断で日本は救われたと言えるが、
憲法も陛下の一言が決したと言ってもよいだろう。

若しあのとき天皇が権力に固執されたらどうなっていたか。
恐らく今日天皇はなかったであろう。

日本人の常識として天皇戦争犯罪人になるというようなことは
考えられないであろうが、
実際はそんな甘いものではなかった。

当初の戦犯リストには冒頭に天皇の名があったのである。
それを外してくれたのは元帥であった。

だが元帥の草案に天皇が反対されたなら、
情勢は一変していたに違いない。

天皇は己れを捨てて国民を救おうとされたのであったが、
それに依て天皇制をも救われたのである。
天皇は誠に英明であった。

正直に言って憲法
天皇と元帥の聡明と勇断によって
出来たと言ってよい。

たとえ象徴とは言え,天皇と元帥が一致しなかったら
天皇制は存続しなかったろう。

危機一髪であったと言えるが、
結果に於いて僕は満足し喜んでいる。

なお念のためだが、君も知っている通り、
去年金森君からきかれた時も僕が断ったように、

このいきさつは僕の胸の中だけに
留めておかねばならないことだから、
その積りでいてくれ給え。 

-以上、「平野文書」全文を転載致しました。