9条と自衛隊の矛盾を解決するには(4)

ウクライナ戦争終結の見通しがなく、
アメリカに第二次トランプ政権ができ、

NATOの新防衛費目標は、
GDP比3.5%に引き上げられました。

(2014年に設定した以前の目標は、
GDP比2%でした)

日本の場合、1976年、
三木武夫内閣が軍事大国化の歯止めとして、
「防衛費は、GNP1%枠内」を決定しました。

その後、中曽根康弘内閣が、
1%枠を撤廃しましたが、

予算編成において、
GDP比「1%」は、強く意識されてきました。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、
NATO加盟国が相次いで国防費を2%にすると
表明したことに追随する形で、

岸田文雄首相は、同年12月、
「国家安全保障戦略」の中で、

「27年度に、
予算水準がGDP比2%に達するよう
措置する」と明記しました。

2025年度の防衛予算は、
GDP比1.8%で、目標直前です。

イギリスのシンクタンク・国際戦略研究所(IISS)は、
2024年の世界全体の防衛費について、

前の年より7.4%増えて、2兆4600億ドル、
日本円でおよそ380兆円と
過去最高に上ったと発表しました。

憲法9条を発案した幣原喜重郎が、
語っていたように、

「世界は軍拡競争の蟻地獄から
抜け出すことができないのである」
(「平野文書」より)

軍事費の増大を、憲法の規定で抑えるのは、
むずかしいのではないかと思います。

その時々の世界情勢によっても
変動はあると思います。

財政健全化を図る中で、
身分不相応な軍備拡張を控える
ということになるのではないでしょうか。

借金を増やして、積極財政というのには、
私は反対です。

経済対策、財政出動でお金を使うのは、
やめていただきたい。

国債費というのがあります。
借金の返済と利払いです。
予算の約4分の1を占めています。

来年度予算(概算要求)では、32兆3865億円で、
過去最大になるそうです。

このまま借金を増やしていくと、

将来世代は、いくら税金を集めても、
過去世代の付けを払うばかりで、

自分たちのためには、
お金を使えなくなります。











 

9条と自衛隊の矛盾を解決するには(3)

<A案> 9条2項を削除する
のメリット、デメリットを考察します。

メリットとしては、
2項が禁じる、「陸海空軍その他の戦力」そのものである
自衛隊と、9条2項の矛盾が解決され、

法秩序を回復できることです。

脱法行為まがいの「解釈改憲」を続ける政府を
まっとうな道に連れ戻し、

法治主義、法の支配という民主主義の
基本を守らせることができる。

違憲立法審査権の行使から、逃げまくっている、
裁判所にやるべき仕事をやらせ、
司法の危機を解消させる。

一言でいうと、民主主義の回復です。

次に、デメリットです。

まず、対外的に、周辺のアジア諸国に脅威を
与えないかという、懸念ですが、
これはなさそうです。

フィリピンなどは、中国の脅威を前に、
日本の軍事的増強は、むしろ歓迎される傾向です。

一番懸念されるのは、
軍拡に歯止めがかからなくなるのでは、
ということだと思います。

ただ、現状、9条2項がある中で、
どれだけ、軍拡に歯止めが
かかっているのでしょうか?

2023年2月、岸田首相は、
射程1600キロメートル以上の
米国製巡航ミサイル「トマホーク」を

400発購入する計画を
明らかにしました。

<長射程ミサイルの主な導入計画>
()内は想定する発射拠点

▼2026年度

・米国製トマホーク(艦艇)
・「12式地対艦誘導弾」能力向上型(地上)
・「島しょ防衛用高速滑空弾」(地上)

▼2028年度

・「12式」能力向上型(艦艇)

▼2030年代

・「12式」能力向上型(航空機)
極超音速誘導弾(地上、潜水艦)
・高速滑空弾能力向上型(地上)

2022年末に、政府は、
国家安全保障戦略など、
安保関連3文書を決定し、

「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有
打ち出しています。

政府は、「反撃能力」について、
日本が直接攻撃を受けた事態だけでなく、

日本と密接な関係にある他国への
武力攻撃事態についても、

集団的自衛権」で反撃できると
解説しています。

これ以上、何を歯止めするというのでしょうか?
9条2項があっても、
何の歯止めにもなっていないのではないでしょうか?

9条と自衛隊の矛盾を解決するには(1)

このブログ「憲法9条の解釈(1)~(4)」で、
9条2項と、自衛隊の存在は、
相容れないことを論証しました。

では、その矛盾をどうやって解消するか、
ということになります。

私は、9条2項を削除する
ということを提唱しています。

9条2項と、自衛隊の矛盾を解消するには、
4通りの方法があります。

<A案> 9条2項を削除する

<B案> 自衛隊国土保安隊に改組し、非戦力化する

<C案> 解釈改憲で、自衛隊は合憲だとする

<D案> 矛盾したまま、両者を共存させる

法政大学教授・田嶋陽子が、
憲法は理想を語るもので、現実に合わせる必要はない」
といった趣旨の発言をしていました。

これが<D案>です。
これは、とんでもない話です。

こういうことを言っていたら、
他の人権規定でもなんでも、守られていなくても、
あれは、理想を言っているのだから、

守られてなくていいんだ、となってしまいます。
前文などは、理念を語るというところもありますが、
具体的な条文で記載されていることは、守るべきです。

次に<C案>です。
これがこれまで、日本政府、自民党がやってきたことです。
これも、条文を正しく理解することから逸脱しており、
正しい法治主義、法の支配の在り方ではありません。

先の戦争は、法を守らない、
規則を守らないところから始まりました。

統帥権、指揮命令系統を無視して、
現地の関東軍参謀が勝手に軍事行動を起こして
満州事変が始まりました。

陸軍中央も、関東軍に押され、

当初、不拡大方針だった政府も
軍を追認し、

さらには、天皇も東条に裏切られ、
最後には御前会議で日米開戦を承認します。

満州事変の首謀者たちは、
処分されるどころか、栄進し、
板垣征四郎は、陸軍大臣にまでなっています。

法や規則を破っても処罰されず、
なあなあで済まされることが、
戦争につながりました。

その反省からも、法の支配の徹底、
民主主義を守るという観点からも、
解釈改憲」を認めることはできません。

<B案>は、日本社会党が提唱していた、
非武装中立論」で、
憲法9条を正しく解釈するとこうなります。

9条2項が言っているのは、非武装ですが、
その意味では、この憲法
最初から守られていないのです。

敗戦によって、旧日本軍は武装解除されたので、
そこだけ見ると、一見非武装のように見えますが、
代わりに占領軍が入ってきており、非武装ではありません。

9条2項は、初めから、「絵に描いた餅」だったのです。

これまで、実現できなかったことを、
今実現できるのでしょうか?
















9条と自衛隊の矛盾を解決するには(2)

領空侵犯の恐れがある外国軍機などに
航空自衛隊の戦闘機がスクランブル発進をしています。

2024年度は、704回だったそうです。
1日に2回、
そういうことが起こっているということです。

国別では中国機が464回、
ロシア機が237回でした。

実際の領空侵犯としては、中国機、ロシア機とも、
昨年度に1件ずつ発生しています。

中国軍機は昨年8月26日に長崎県沖の上空で初めて領空侵犯し、
露軍機は同年9月23日、北海道沖の上空で1日に3度も領空に入ったそうです。

また、中国は無人機の運用も活発化させており、
中国無人機の数は30機で、前年度の3倍だそうです。

以下は、読売新聞オンラインからの抜粋です。
尖閣諸島の状況が記載されいます。

<読売新聞オンラインから転載(抜粋)>

中国海警局の船が同諸島周辺の接続水域(領海の外側約22キロ)
を航行した日数は9日までに連続295日に上り、
国有化以降、最長を更新。

尖閣周辺では、操業する日本漁船に近づき、
領海内に侵入する動きも常態化しており、・・・

海保は巡視船3隻を漁船の左右両側と後方に展開。・・・
男性は「海保の警備がなければ、
怖くてとても漁はできない」と語る。


中国海警船による尖閣周辺での航行は、
・・・昨年の航行は355日で過去最多を更新。

20年頃からは日本漁船が領海内に入ると、
領海侵入して接近を繰り返すようになった。
・・・今年の領海侵入は20件で。

国有化前から尖閣周辺で漁を続けている
与那国町の男性(53)によると、

ここ数年は、出漁のたびに
海警船2隻に挟み撃ちされたような状態での漁を
余儀なくされているという。

男性は「日本の海なのに、
なぜ不安を抱えながら漁をしなければならないのか」
と憤る。

11管の坂本誠志郎本部長(59)は
「今年は365日、海警船が尖閣周辺に居続ける勢いで、
異常事態だ。

現場は常に高い緊張を強いられ続けている」
と危機感を募らせる。

 海上保安庁OBの一條正浩・海上保安協会常務理事の話
「接続水域航行日数や
領海侵入時間の最長記録を更新させ続けているのは、

中国側が領有権を主張するうえでの
既成事実を積み重ねる『サラミ戦術』の一環だろう。」


<転載、以上>


以上が、日本周辺の空と海の状況です。

南シナ海の「南沙諸島」は、
フィリピンなど6カ国が領有権を主張しています。

その中でも、中国の強引さは、
目立っています。

中国は約12平方キロメートルを埋め立て、
飛行場、港、灯台、住居施設を完成させ、
病院や海洋観測センターも建設されています。

ミサイルも配備し、
軍事拠点化が進んでいるという報告もあります。

2016年7月、オランダ・ハーグの
常設仲裁裁判所は、

いわゆる「九段線」に囲まれた
南シナ海の地域について

中国が主張してきた歴史的権利には、
国際法上の法的根拠がなく、
国際法に違反する」

との判定を下していますが、
中国は受け入れていません。

以上、日本周辺の緊迫した状況を記載しました。

こういう中で、自衛隊をやめるなどということは、
考えられません。

よって、
<B案> 自衛隊国土保安隊に改組し、非戦力化する
も、不採用です。







 

米軍による麻薬運搬船爆撃

トランプ政権下で、9月2日、
ベネズエラから米国に向かっていた
船が麻薬を運んでいたとして、

米軍が、公海上で爆撃し、
11人を殺害しました。

そして、9月15日、
再度、同様の爆撃をし、
今度は、3人を殺害しました。

こういうことが、たびたび行われると、
これが常態化し、
違和感なく受け止められるおそれがあるので、

あえて言わせていただきます。
これは違法です。

普通の国は、常識をわきまえている国は、
こういうことは致しません。
日本では考えられないことです。

普通の対応としては、
船が米国の領海に入った後に
沿岸警備隊が船員を拘束することになります。

この場合でも、「拘束」です。
いきなり「殺害」ということはありません。

トランプのやり口は、フィリピンのドゥテルテ大統領が、
自国の麻薬取り締まりで、捜査員が犯人を逮捕ではなく、
いきなり射殺することを容認していた手口です。

国際刑事裁判所(ICC)により、
人道に対する罪にあたる可能性が高いとして、
逮捕状が発行されました。

フィリピンの現政権は、
この逮捕状に基づき、ドゥテルテを逮捕し、
彼は、オランダ、ハーグの拘留施設に収監されました。

ドゥテルテは、警察権の濫用です。
トランプも同様です。

トランプは、今のところ14人殺害ですが、
これが数百人、数千人になると、
彼もICCから逮捕状を発行されることになります。

米国の場合、公海上で、
警察権を行使しています。
海上では、米国の警察権は及びません。

トランプは、法を犯すことに極めて無頓着ですが、
実は、トランプに限らず、米国は、
これまでも、たびたび国際法を侵す行動を取っています。

ブッシュ(父)政権下で、1989年12月、
米軍はパナマへ侵攻し、ノリエガ将軍を逮捕しました。

これは、白昼堂々と軍隊を送り込んでおり、
あまりに明白な国際法違反だったため、

いつもは米国追随の日本も
さすがに遺憾の意を表していました。

オバマ政権下での、オサマ・ビンラディンの殺害も、
パキスタン領内での警察権の行使で、
国際法違反です。

米国は、国際紛争を解決する手段としての
武力の行使を抑制しよう
などという気はまったくないようです。

外交上の一つの手段として、
軍事行動というカードを常に持っているようです。

こういう国に長く駐在して、
特にそこの政界関係者の取材をつづけていると、
そういう姿勢が移ってしまうのでしょうか?

NHKのワシントン支局長だった人が、
北朝鮮への核の先制攻撃を提案していたのには、
驚きました。









 

憲法9条の解釈(4)

9条を思いついた時のことを、幣原が述べています。
「第九条というものが思い浮かんだのである。
そうだ。もし誰かが自発的に武器を捨てるとしたら ー

最初それは脳裏をかすめたひらめきのようなものだった。
次の瞬間、直ぐ僕は思い直した。
自分は何を考えようとしているのだ。

相手はピストルをもっている。
その前に裸のからだをさらそうと言う。」
(「平野文書」より)

完全な無防備、非武装、絶対平和主義です。

幣原の提案を受けたマッカーサーは、
当初は、躊躇し、驚いていたようですが、

「賢明な元帥は最後には非常に理解して
感激した面持ちで僕に握手した程であった。」
(「平野文書」より)

幣原と会談した後、マッカーサーは、
ホイットニー民政局長に憲法草案の作成を命じます。

この時に提示したのが、「マッカーサー・ノート」です。

そこには、「国家の主権的権利としての戦争を廃棄する。
日本は、紛争解決のための手段としての戦争、
及び自己の安全を保持するための手段としてのそれをも、放棄する」

と記載されており、
自衛のための戦争をも否定しています。

1947年5月3日に日本国憲法が施行された時、
文部省はこの憲法を解説する教科書を作成しました。

それが、「あたらしい憲法のはなし」で、
新制中学校1年生用の社会科の教科書として発行されました。

憲法」「民主主義とは」「國際平和主義」「主権在民主義」
天皇陛下」「戰爭の放棄」「基本的人権」「國会」「政党」
「内閣」「司法」「財政」「地方自治」「改正」「最高法規

の十五章からなり、
日本国憲法の精神や中身を易しく解説しています。

その「六 戦争の放棄」を抜粋して転載します。

「こんどの憲法では、日本の國が、
けっして二度と戦争をしないように、
二つのことをきめました。

その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、
およそ戦争をす るためのものは、
いっさいもたないということです。

これからさき日本には、
陸軍も海軍も空軍もないのです。
これを戦力の放棄といいます。

・・・もう一つは、よその國と争いごとがおこったとき、
けっして戦争によって、相手をまかして、
じぶんのいいぶんをとおそうとしないということをきめたのです。

・・・また、戦争とまでゆかずとも、
國の力で、相手をおどすようなことは、
いっさいしないことにきめたのです。

これを戦争の放棄というのです。」

ここにも、明確に「戦力の不保持」が、
言われています。

しかし、この教科書は、1950年に副読本に格下げされ、
1951年からは使用されなくなりました。

1950年に警察予備隊を創設し、日本の事実上の再軍備へと
舵を切ったGHQの新方針に沿ったと思われます。

1965年、私が中学3年の時に使った教科書では、
憲法全文が付録として収録されていました。

今の中学生に聞いたところ、
「そんなものはない」と言っていました。










憲法9条の解釈(3)

次に第二項の解釈です。

憲法9条第二項
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
国の交戦権は、これを認めない。

「戦力不保持」の規定です。

「前項の目的を達するため、」とは、
第一項の戦争放棄という目的を徹底するために、
ということです。

第一項のための必要十分条件として、
「戦力不保持」を規定しています。

第一項は世界の常識と言ったのですが、
この第二項の規定によって、
憲法9条は、世界に類例を見ないものになっています。

自衛のための戦力であっても、持てないのです。
これが、憲法制定当初の解釈です。

その後の、「解釈改憲」で、
自衛のための戦力は持てるとするのは無理があります。

侵略戦争を遂行するための戦力は、これを保持しない」
とは書いていません。

そもそも戦力に、この戦力は侵略用、
この戦力は自衛用
というような区別は、ありません。

もし、自衛のための戦力なら持っていいと言うのなら、
そもそも第2項は不要だったはずです。
この規定を設ける意味がありません。

第90回帝国議会での質疑で、
野党議員から「憲法9条では自衛のための戦争もできないことになるが、
それでいいのか」と問い詰められたときに、

吉田首相は、「自衛にためと称して、
侵略戦争が行われたのだから、それでいい」
という趣旨の回答をして、拍手喝采を浴びています。

この理解で、国会は憲法改正案を圧倒的多数で可決したのです。
したがって、憲法制定時の解釈では、
自衛のための戦争をも放棄したものとされていたのです。

憲法9条の発案者は、
総理大臣・幣原喜重郎でした。

その経緯は、この私のブログの
憲法9条の起源」に記載しています。

また、衆議院議員・平野三郎が、幣原の口述を記録した、
平野文書」は、第一級の歴史的資料なので、

このブログに、「平野文書」全文(1)~(9)として、
転載しています。ご参照下さい。

なお、憲法9条幣原喜重郎発案説、「平野文書」については、
異論もあるようですが、私は信ぴょう性があると思っています。